韓国におけるデジタルヘルスケア分野の特許審査実務について

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韓国におけるデジタルヘルスケア分野の特許審査実務について

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増加するデジタルヘルスケア及びバイオマーカー分野の特許出願に韓国特許庁はどのように対応し審査実務を行っているのだろうか。韓国・第一特許法人の孫世靖(ソンセジョン)弁理士が詳しく解説する。

第4次産業革命の技術への関心が高まっていることに伴い、関連出願の増加速度も加速している。 韓国特許庁の分類による当該技術には、人工知能(AI)、ビッグデータ(BD)、モノのインターネット(IoT)、バイオマーカー(BM)、デジタルヘルスケア(DH)、知能ロボット(IR)、自動運転(AV)、3Dプリンター(3DP)の8つの分野が含まれる。

韓国特許庁が発表した統計によると、昨年コロナウイルス感染症による影響があったにもかかわらず、第4次産業革命に関する技術分野の特許出願はますます増加傾向にあるという。特に、韓国内全体の特許出願が前年比3.3%増加したのに比べ、デジタルヘルスケアとバイオマーカー分野の特許出願は30%以上増加した。

このような第4次産業革命に係る技術分野の出願の増加及び新技術の融合・複合化に対応するために、韓国特許庁は組織改編を通じて当該技術を審査する融複合技術審査局を新設した。また、韓国特許庁は、第4次産業革命技術に対する審査基準を整え、AI、IoT、バイオ等、5つの主要分野に関する審査実務ガイドを発刊した。

特許審査基準に提示された事例

これまでデジタルヘルスケア分野では、AIを基盤とした新薬開発と診断方法、そしてバイオマーカー等の特許性の判断基準が不明確だと指摘され続けてきた。今回改訂された特許審査基準では、これらの発明に対する具体的な審査事例と共に特許の付与基準を提示しており、それは下記の通りである。

事例1. コンピュータプログラムを活用した新薬の候補物質

新たな審査基準に提示された事例のうちの1つは、下記請求項に記載されているように、コンピュータプログラムを利用した新薬開発に係る発明の特許性に関するものである。

【請求項1】 コンピュータデバイスがバイオインフォマティクスを用いて標的タンパク質の無秩序ー秩序転移領域を決定する段階;

前記コンピュータデバイスが前記無秩序ー秩序転移領域を対象に、特定の化合物ライブラリーを連動した分子ドッキングを行って前記化合物ライブラリーの中から前記無秩序ー秩序転移領域に結合可能な第1の候補化合物を選択する段階;及び

前記コンピュータデバイスが前記第1の候補化合物と前記無秩序ー秩序転移領域に対する分子動力学シミュレーションを行って前記第1の候補化合物の中から第2の候補化合物を選択する段階を含む、新薬の候補物質の探索方法。

【請求項2】 第1項の方法で探索した、化学式1~3から選択される化合物(化学式は省略)。

【請求項3】 第2項の化合物を含む、胃がんの転移を抑制するための医薬組成物。

前記仮想の事例において、新薬の候補物質のスクリーニング方法が従来から知られているコンピュータプログラムまたはアルゴリズムをマニュアル通りに使用して物質を探索し、その作用を予測した場合は進歩性が認められない。

また、新薬の候補物質の標的タンパク質との相互作用及び特定の疾患に対する治療効果を具体的な実験で確認せず、イン・シリコ(in silico)の方法のみで予測した場合は、発明の有用性または明細書の記載要件を満たさないと判断され得る。つまり、コンピュータ上で新薬の候補物質を探索した場合も、当該物質が実際にタンパク質と結合するか疾病治療の効果が現れることを確認した実験やデータを、発明の詳細な説明に記載することが重要である。

事例2. デジタル診断方法

【請求項1】 コンピュータで行われる胃がんの個体感受性を予測する方法であって、(a)個体に存在する1つ以上の胃がんの対立遺伝子変異のデータをコンピュータに入力する段階、(b)胃がんの対立遺伝子変異及び前記変異に関連する胃がんの情報を含むコンピュータのデータベースと、前記データとを比較する段階、及び(c)前記比較に基づいて、前記個体が胃がんになりやすいかどうかを決定する指標を算出する段階を含む、方法。

韓国の特許審査実務上、ヒトを対象とする手術、治療または診断方法に関する発明は、産業上利用可能性がある発明に該当しないことから特許を受けることができない。ただ、診断方法が人体に直接的な影響を与えない場合または医療人の臨床的判断を含まない場合は、産業上利用可能な発明として認められる。上記事例のように、当該段階がコンピュータ上の情報処理技術であることが明らかな場合は特許の対象になり得る。

また、診断方法を「情報を提供する方法」として請求することも特許の適格性の問題を解消する方法になり得る。特許審査基準において臨床的判断を含まないものと例示されている方法としては、「医療機器で人工知能のアルゴリズムを実行して、がんを予測するかがんを予測するための情報を提供する方法」、「X線診断装置を用いたがん診断のための情報を提供する方法であって、前処理モジュールがX線映像からノイズを除去する段階、及び人工知能モジュールにX線の映像が入力され、がん診断のための情報を抽出する段階を含む、方法」等がある。

事例3. バイオマーカー

【請求項1】 rs2290692、rs28493229及びrs10420685からなる群から選択されるいずれか1つ以上の多型性を含むポリヌクレオチドを含む、川崎病に関する症状の予測のためのバイオマーカー。

【請求項2】 rs2290692、rs28493229若しくはrs10420685、又はこれらの組み合わせからなる多型性を含むポリヌクレオチドを含む、川崎病に関する症状の予測のための組成物。

請求項の文末が「バイオマーカー」と記載されている場合、用途に関係なく物質そのものを請求するものと見なして特許性を判断する。このような点からバイオマーカーは組成物の請求項またはキットの請求項の形態で記載することが考えられるが、この際、発明の単一性に反しないよう注意しなければならない。審査基準に提供された前記事例において、(ポリ)ヌクレオチドの間に共通の配列部位や構造的な類似性が存在しなければ、(ポリ)ヌクレオチドを分析して疾病を予測することのみでは先行技術に比べて改善された共通の構成を有するとは認められない。したがって、単一性の要件を満たすためには、バイオマーカーをマーカッシュ形式で定義してはならず、事例の請求項2のように個別に列挙すべきである。

デジタルヘルスケア分野の審査制度

特許審査基準の改訂の他、韓国特許庁はデジタルヘルスケア分野の審査を支援するために下記のような制度を施行中である。

  • 個別化医療(personalized medicine)、革新的な新薬等の出願を優先審査の対象へと拡大した。優先審査を利用した場合の特許登録までにかかる期間は平均5.5ヶ月であり、一般審査よりも10ヶ月以上早く権利を確保することができる。

  • 融合・複合技術については、各分野の3名の専門審査官が協議審査を行っている。2019年11月に融複合技術審査局が新設されて以降、今年4月までに審査された全体の件数の16.8%に対して協議審査が行われた。

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孫世靖 (ソンセジョン)

第一特許法人(FirstLaw PC)

弁理士/薬剤師

孫世靖氏は、韓国のtop-tier IP firmである第一特許法人のパートナー弁理士である。

ソウル大学薬学科を卒業し、アメリカの南カリフォルニア大学ロースクールでLL.M.の学位を取得した。

2004年に入所して以来、医薬、バイオ、化学分野における特許出願、審判・訴訟、鑑定など様々な業務に励んできた。また、韓国の医薬品許可特許連携制度に関する業務を成功に導き、韓国国内及び多国籍の製薬会社の代理を務めた審判・訴訟で大きな成果を収めてきた。現在は第一特許法人で日本特許グループ所属の医薬・バイオのチームリーダーとして、技術、IP、法律と多岐にわたる専門性をもとに日本のクライアントに最適なIPサービスを提供している。

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