主特許(原特許)の出願で最初に開示した発明のさまざまな要素を保護できるように、特許出願を蓄えておく戦略において、分割出願は重要な役割を果たします。
分割出願を取り巻く状況は、2012年に知的財産審判委員会(IPAB)が分割出願の保全性を審査したLG Electronics訴訟において初めての審決を下したことで大きく変わりました。IPABのLG Electronics訴訟の審決では、分割出願の保全性について、以下の3つの基礎条件を定めました。
1件の出願における発明の多重性に関連する瑕疵に対処する。
1件の出願で開示された複数の発明に関する分割出願を促進する。
対応する分割出願に関する原出願の優先日を認める。
LG Electronics訴訟では、任意的分割出願開始の基本的基準を取り入れ、任意的分割出願のクレームは「区別可能な発明」に関連しなければならないことを明記しました。
この影響力の強い審決に続く一連の審決には、同じ基準が色濃く残りました。2020年のEsco Corporation v The Controller of Patents & Designs訴訟において、IPABは、分割出願の保全性を決定するための追加基準を取り入れました。この基準では、分割出願のクレームが任意的であれ強制的であれ、原出願のクレームに根拠を有する、またはそこから推定可能であり、派生していなければならないと定めています。IPABの審決は、「請求されない事項はその請求を棄却される」という法律上の原則をさらに強調しました。
それに続き、デリー高等裁判所は、Boehringer Ingelheim International GMBH v Controller of Patents and Another (2022年)の判決において、Esco訴訟におけるIPABの事実認定に同意しました。同裁判所は、1970年インド特許法のSection 10に従い、発明の骨子はクレームの中に存在し、複数の発明の一致が1つの発明概念を形成するか否かの決定は、クレームの審査に依存すると断定しました。
法律の文言
こうした基準の適用は、1970年インド特許法Section 16の観点から精査されなければなりません。同条項は、任意的および強制的分割出願の提出を対象としており、次のように定めています。"A person who has made an application for a patent under this Act may, at any time before the grant of the patent, [(A)] if he so desires […] file a further application in respect of an invention disclosed in the provisional or complete specification already filed in respect of the first mentioned application [or (B) file a further application] with a view to remedy the objection raised by the Controller on the ground that the claims of the complete specification relate to more than one invention [emphasis added].”(「本特許法に準拠して特許を出願した者は、特許付与前の任意の時点で、[(A)] 出願人が望む場合、[…] 最初に記載した出願に関して既に提出された仮明細書または完全明細書で開示された発明に関して追加出願を申し立てる)、または、[(B)] 完全明細書のクレームが複数の発明に関連することを根拠として、審査管理官によって提起された異議申立を救済する目的で[追加出願を申し立てる] [強調追加]」。)
分割出願に関して規定された2つの基準は、Section 16(1)のありのままの意味と一致しないように見えます。分岐条件AおよびBは自己完結型選択肢として存在するからです。Section 16(1)で強調されているのは以下の要素です。
· 分岐条件Aでは“Disclosed”(開示された)であるのに対し、分岐条件Bでは“claimed”(請求された)と記載されている。
· 分岐条件Aでは“Provisional/ complete specification”(仮明細書/完全明細書)であるのに対し、分岐条件Bでは“complete specification”(完全明細書)と記載されている。
· 任意的分割出願と強制的分割出願の提出要件を区別するSection 16(1)におけるコンマの存在。
条項の文言からは、任意的であれ強制的であれ、分割出願の申立が仮出願または完全明細書に含まれるクレームではなく、開示に基づくことが明白です。その証拠に、立法機関には、任意的であれ強制的であれ、特許出願の発明開示に基づいて分割出願を認める意図がありました。仮出願は、審査を経ることもなければ、クレームを含むこともありません。
分割出願のクレームは、(開示に加えて)原出願のクレームがあることを条件とすることが立法機関の意図であった場合、文言は次のようになっていた可能性があります。“File a further application in respect of an invention disclosed and claimed in the provisional or complete specification already filed in respect of the first mentioned application”.(「最初に記載した出願に関して既に提出された仮明細書または完全明細書で開示および請求された発明に関する追加出願を申し立てる」)。
この人為的な線引きは、立法機関が生み出したものではありません。分割出願の開示に基づくか、完全明細書のクレームに基づくかによって、Section 16における分割出願の解釈は異なりません。特許出願の明細書には、インドであろうと他国であろうと、数多くの発明概念および実施態様が含まれる場合がありますが、申し立てられたクレームで請求できる発明概念または実施態様は1件のみであることは明白です。これは、特許明細書の開示に基づいて1件以上の分割出願を申し立てる出願権を妨害および排除するものではありません。
強制的分割出願
同様に、強制的分割出願の文脈において、1件以上の分割出願を申し立てる場合の強制力は、1970年インド特許法Section12および13に準拠した特許出願の精査および審査中に、Section 10(5)に準拠した複数の区別可能な発明に関するインド特許庁による異議申立から生じました。
この解釈は、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定および工業所有権の保護に関するパリ条約のArticle 4(G)にも整合します。
工業所有権の保護に関するパリ条約のArticle 4(G)(1)では、分割出願の事実認定を正当化する2つの区別可能な状況を想定しています。Article 4(G)(1)では、最初の審査報告書で原出願が複数の発明を具体化することが明らかにされる場合に申し立てられる出願を想定しています。
Article 4(G)(2)は、裁判所の職権による分割出願の申立に関する規定です。この条項は、もっぱらArticle 4(G)(1)に関して、出願に複数の区別可能な発明の必要性を含める点を明確にします。Article 4(G)(2)には、そのような要件がありません。それでも、Section 16(1)ならびにArticle 4(G)(1)および4(G)(2)は、分割出願のクレームが原出願のクレームに基づくこと(あるいはそれに由来すること)を要求しません。
判例法への重大な追加
直近では、前述の基準と同調して、デリー高等裁判所の同格裁判官は、Syngenta Limited v Controller of Patents and Designs訴訟(2003年7月26日)において、IPABの過去の命令およびデリー高等裁判所の判決とは異なる判決を下しました。その判決の骨子は、1970年インド特許法のSection 16(1)の条項における以下の3つの表現と句読点を分析したことです。
Section 16(1)で使用される2つの区別可能な表現である“relate to”(関連する)および“disclosed in”(開示した)。
1970年インド特許法のSection 16(1)において、“or with a view to remedy”(または救済を目的として)の後にコンマがないこと。
追加出願の根拠を"disclosure in the provisional or complete specification”(仮明細書または完全明細書における開示)としてもよいという承認。
裁判所は、“relate to”および“disclosed in”という表現の重要性を見落としたり過小評価したりすることはできないと断定しました。
一般的に、審査管理官が複数の発明を含む原出願の完全明細書のクレームに関して異議を申し立てる場合、出願人は、仮明細書または完全明細書で開示した発明に関する追加出願を申し立てる権利を留保すると考えられていました。条項が規定するように、原出願のクレームに複数の発明を含める必要はありません。
裁判所は、表現の重要性を断定し、次のような考えを示しました。「仮出願にクレームを含めることは不要である。特許法のSection 16(1)は、原出願に関して申し立てられた仮明細書で開示された発明に関しても、分割出願の申立を認めている。したがって、原出願で複数の発明を請求する要件が適用される場合、原出願に仮明細書しか含まれない分割出願を申し立てることはできない。仮明細書はクレームを含めるためのものではないからである。Section 16(1)は、原出願の仮明細書または完全明細書で開示された発明に関して分割出願を申し立てることを認めてはいるが、複数の発明の明細書をクレームに含めることは決して必須ではない」
法令における句読点の重要性
また、裁判所は、Section 16(1)で"controller"(審査管理官)の後にコンマがないことは、分割出願を申し立てることができる2つの状況を疑う余地がないほど線引きするという見解を示しました。第一に、原出願の出願人は、分割出願を望む場合は申し立てることができます。
第二の状況は、完全明細書のクレームが複数の発明に関連することを根拠として、出願人が審査管理官によって申し立てられた異議に対処することを望む場合に発生します。 この解釈は、Section 16(1)で"if he so desires"の後にコンマがありますが、"raised by the controller"の後にはコンマがないという事実から生じています。
裁判所は、法令における句読点の重要性も支持しています。法令では、句読点が説明や解釈の決定要因になることはよくあります。裁判所は法的立場を法令の条文にあるものとみなしがちですが、立法機関によって細心の注意を払って作成された文法構造を無視することはできません。
裁判所は、Section 16(1)で"by the controller"の後にコンマがないことは、法令の目的を損なうと仮定する根拠が存在しないと判断しました。むしろ、そのような解釈は、Section 16(1)を工業所有権の保護に関するパリ条約の対応する条項と合致します。
最後に、裁判所は、Section 16(1)が完全明細書内の開示に基づいた分割出願の申立を想定しているという見解を示しました。立法機関は、原出願のクレームのみを根拠とした分割出願の申立を人為的に区別することを制度化しないようにしてきました。インドを含むさまざまな国や地域の特許法では、仮出願にクレームを含める必要がないことが慣例となっています。その結果、先例の解釈を考慮すると、仮出願内の開示に基づいて分割出願を申し立てる行為を不必要と見なすことはできません。
デリー高等裁判所の同格裁判官が下した判決には見解の相違が見られることを考慮し、この問題は上位の裁判官に諮問されました。差し当たり、Anand and Anandでは、IPABおよびデリー高等裁判所によって出された過去の判決をすべて慎重に検討し、後の命令の方を優先すべきと考えています。