韓国における特許取消申請制度は、2017年3月1日から施行されて約5年間運用されている。同制度は、日本における異議申立制度と非常に類似するが、取消の理由等において多少異なり、具体的には、文献に基づいた新規性、進歩性、先願、拡大された先願のみが特許取消申請の理由となり得、さらに審査官が審査過程で引用した文献のみに基づいた申請は許容されない。
本稿では、特許取消申請制度の施行以降5年が経過し、制度の運用が安定化した現時点において、その間の特許取消申請に係る統計及び傾向について紹介する。本統計は、制度施行以後に申請された件のうち、2021年末までに審理が終結した件を対象として作成した。
特許取消申請の件数は、年平均約150件程度であり、特許権者の国籍別では韓国が55%、外国が45%であり、外国の特許権者のうち、日本の特許権者の割合が約58%に達した。
一方、特許取消申請の対象となった特許の技術分野としては、国際特許分類(IPC)を基準に、化学/冶金(C)が最も多く(30%)、次いで電子(H)が続いた(23%)。
韓国産業の特性上、電子材料、素材部分の競争が激しく、この技術分野における特許に対する取消申請が主となり、特に当該分野における韓国企業の主要な競合他社としては、日本企業が非常に多いため、日本の特許権者の割合が高いと把握される。
処理結果
特許取消申請の処理件数は、年平均約180件程度であり、認容率(一部認容を含む)、つまり、特許(一部)取消率は、約30%前後の値を示した。無効審判における無効率(2021年基準52.3%)よりは高くないが、日本の異議申立に比べて取消率が非常に高い方である。ここで、認容率は、「認容件数/(認容件数+棄却件数+却下件数+取下げ件数)」と算定した。
具体的な審理結果を検討すると、取下げ、却下により終了した件を除いた、実質的な審理が行われた事件において、取消理由が発せられないまま、棄却(特許維持)された割合が30%、訂正を通じて特許が維持された割合が34%、訂正をしたにもかかわらず(一部)認容、つまり、特許が(一部)取り消された割合が17%、訂正をせず、特許が(一部)取り消された割合が15%であった。一方、訂正をしないまま、特許がそのまま維持される割合はわずか4%に過ぎなかった。これを通じて、韓国の特許取消申請において、ひとまず取消理由が発せられる場合、訂正なしに特許をそのまま維持することは非常に困難であるということが分かる。
訴訟統計
2021年まで処理された事件において、(一部)認容された181件のうち、特許法院に出訴した事件は44件であり、出訴率は約24%であった。
一方、特許法院で認容判決(特許有効)が下された割合は、約39%であった(13/33)。
Dong Uk Lee
李東郁氏は、韓国の第一特許法人のパートナー弁理士であって、韓国のソウル大学応用化学部を卒業し、第一特許法人の日本事業部の一員として勤めている。
2008年以降、日本のクライアントの事件を主な業務としており、化学・材料分野における日本企業を代理して特許出願の中間手続き、特許審判・訴訟、各種鑑定・調査などの業務を担当している。また、2014年~2015年の2年間、日本の東京理科大学大学院でのMIP課程を通じて日本の知財関連実務及び理論の専門性を高め、これをもとに比較法的な側面から日本のクライアントのニーズにより忠実に対応するために取り組んでいる。
業務分野は、化学、高分子、化学工学・工程、電子材料、金属・合金、纎維などで、特に、近年ますます増えている融合・複合(ハイブリッド)技術分野において強みを持っている。
クライアントのための韓国の判例、知財統計、法改正事項の検討及び発表・セミナーも持続的に行っており、最新の判決、動向に基づいて各クライアントに沿った的確なサービスを提供している。