パンデミック時代のインド特許制度

Managing IP is part of Legal Benchmarking Limited, 4 Bouverie Street, London, EC4Y 8AX

Copyright © Legal Benchmarking Limited and its affiliated companies 2024

Accessibility | Terms of Use | Privacy Policy | Modern Slavery Statement

パンデミック時代のインド特許制度

Sponsored by

remfry-sagar-400px.png
india-remfry.jpg

Remfry & SagarのShukadev Khuraijamが、間違いなく展望の開けた特許分野において、インドが正しい方向にいかに堅実に前進しているかを解説します。

新型コロナウィルス感染拡大により、この1年半の間で世界は大きく変わりました。中でもインドは最も大きな被害を受けた国のひとつです。このような状況下でも、インドの特許体制は目まぐるしく変化しています。暗い時代だからこそ、国内の特許ガバナンスの水準を着実に向上させようとする政府の姿勢を示すように、実務や政策に一連の変化が見られました。この記事では、特許における最近の動向について紹介し、その影響について分析します。

特許出願手続き

特許出願と処理は、パンデミックの中にあっても好調でした。世界のGDPが3.5%減少するという推定にもかかわらず、イノベーションを測る指標となるWIPOの特許協力条約(PCT)を介して出願される国際特許出願は、2020年には4%増加しました。インドの商工省産業国内取引促進局(DPIIT)の年次報告書によると、2020年4月1日から12月31日までの9ヶ月間に提出された特許出願は43,028件で、2019年の同時期に提出された41,800件と比較して、前年比2.9%増加となっていることが明らかになりました。

更にデータによると、昨年の未曾有の困難にもかかわらずインド特許庁(IPO)は近年の傾向を維持しており、迅速なペースで出願を処理しています。これを実現したのは、リニューアルした電子ファイリングシステム、審理のための効果的なビデオ会議設備、スタッフの増員であり、これらはすべてパンデミックが発生した時点で既に十分に整備されていたため、特許庁への物理的なアクセスが制限されていても、特許庁がリモートで効率的に機能できるようになっていました。

また、IPOはインド最高裁判所が2020年3月15日から施行した、全期限に対する制限期間の延長を支持しました。IPOと利害関係者の双方にとって、この措置は特許権の保護に大いに役立ちました。特にパンデミックの初期には、インドの非常に厳格な第一次ロックダウンのために、通常の機能における不確実な状態がピークに達していました。当初の延長は2021年3月に解除されましたが、2021年初夏にインドが経験した新型コロナウィルスの深刻な第2波により、最高裁は2021年4月27日にすべての訴訟手続きについて制限期間を再び延長し、本稿執筆時点でもその効力は継続しています。このような不確実な時代にIPOが円滑かつ効率的に機能していることは、特許実務家や出願人からも高く評価されています。ここで特筆すべき点は、2019年から2020年の間に提出された多くの国内申請のうち、特に化学と冶金の分野で承認手続きが行われたことです。

実施報告書

付与された特許の実施報告書を毎年申請するという規定は主要な法域では見られない規定で、外国とインドの権利所有者や実務家との間で常に議論の対象となってきました。歓迎すべき動きとして、2020年10月20日に「2020年改正特許規則」(以下、「規則」)が施行され、実施明細書をめぐる手続きが簡素化されました。

「特許業務」に関する情報の提出について、フォーマットの変更が通知されました。付与された特許の実施報告書は、特許が付与された会計年度の直後に開始する会計年度から、暦年ではなく各会計年度に提出する必要があります。これに伴い、次回の報告では、2020年4月1日以前に付与された特許を報告するとともに、2020年4月1日から2021年3月31日までの関連情報を提出する必要があります。この情報を提出する期限は会計年度末から6ヶ月以内、すなわち2021年9月30日までとなります。

重要な点は、修正されたフォームでは、「特定の特許から得られる概算収益/価値と、それに関連する特許から得られる概算収益/価値を別々に導き出すことができない場合に限り、これらの特許についてひとつの書式にまとめて提出することができる」ことです。今回の変更により、該当するケースでは特許権所有者が連結明細書を提出できるようになり、時間、コスト、工数の削減につながります。

その他の注目すべき変更点としては従来の要件だった、当該年に与えたライセンスとサブライセンスの詳細、特許された発明が合理的な価格により公衆の要求を十分に満たしているかの陳述、特許対象製品/プロセスの量の入力が削除されました。

優先権書類とその翻訳の提出

また、優先権書類の提出とその検証済みの英訳についても、歓迎すべき改正が行われました。従来の規則では、PCT規則第17.1(a)および第17.1(b)に基づき受理官庁で優先権書類が提出されている場合は、優先権書類を提出する必要はありませんでした。改正規則では、PCT規則第17.1(b-bis)に基づき、出願人が電子図書館から優先権書類を入手するよう受理官庁に依頼する場合も上記の例外に含まれるようになりました。 

更に、改正後の規則では、特許庁は、PCT規則第51(e)(i)及び(ii)に該当する場合、すなわち以下の場合のみ翻訳文の提出を求めることになりました。

– 優先権主張の有効性が、特許性の判断に関連する場合 

– (PCT規則4.18及び20.6に基づく参照による編入に基づいて規則第20.3(b)(ii)または20.5(d)において)国際出願日の誤りが訂正された場合

IPABの廃止と特許審判廷

今年の初めにIP業界を驚かせた改革は、政府が2021年2月に審判所改革条例2021を介して知的財産権審判部(IPAB)を2021年4月4日に廃止することを提案し、その後即時廃止されたことでした。

2003年にIPABが設立されて以来、主にスタッフが空席の場合が多かったため、IPABはシームレスに機能していませんでした。例えば報告によると、IPABに議長がいなかった期間は累計で1,130日に及び、直近の遅延期間は約600日にわたります。このような非効率性がIPAB廃止の理由として挙げられています。

その結果、様々な知的財産法(特許法、商標法、商品の地理的表示法、著作権法、植物品種法)に基づいてIPABに係属しているすべての案件や上訴は、場合によりデリー、ボンベイ、マドラス、カルカッタ、アーメダバードの各高等裁判所、著作権問題の場合は商事裁判所に移管されることになりました。また、知的財産に関する新たな控訴や訴訟は、各高等裁判所や商事裁判所に提起されることになりました。

これを機にデリー高等裁判所は、積極的で進歩的なIP法域という評判に応えるために、2021年7月7日、知的財産権(IPR)に係る事案を扱う特許審判廷を設置する知財部門(IPD)を創設しました。この特許審判廷(随時通知)は、IPR訴訟、撤回申請、取消申請、その他本来の手続き、商標登録官、特許管理官、著作権登録官からの控訴、様々な知的財産法の下でIPABに提出されていたその他の手続き、2人の裁判官による第二審で審理される事案を除く、IPR紛争に関するすべての本来の手続きおよび控訴手続きを審理します。

現在、包括的な新規則である「IPDデリー高等裁判所規則」が策定中です。 ここで重要な点は、商業紛争に関わる民事訴訟法(CPC)の規定や、2015年の商業裁判所法(訴訟の迅速な解決を助長する手続き)の規定も適用されることです。 

これは、知的財産権に関する紛争案件の効率的な裁定に向けた前向きな一歩であり、IPABの廃止に伴って発生した裁判手続きの長期化や裁判所による裁定の遅れに関する懸念を効果的に払拭するものです。知的財産案件の効率的な処理を確保するための仕組みを構築したデリー高等裁判所の取り組みを、国内の他の高等裁判所でもすぐに追随することが期待されています。

特許審査ハイウェイ

2019年11月には、インドと日本の間での3年間にわたるパイロットPPHプログラムの実施が承認されました。このプログラムには、特許出願にかかる時間の短縮、係属中の特許出願数の削減、調査や審査における質の向上、インドの発明家が日本での特許出願の早期審査を受けることができるなどのメリットがあります。

このプログラムでは、電気、電子、コンピュータサイエンス、情報技術、物理学、土木、機械、繊維、自動車、冶金といった特定の技術分野に限定して、日本の特許出願を利用したいという特許出願をIPOが受け付けます。 逆のシナリオでは、日本の特許庁は、あらゆる技術分野における(付与されたインド特許からの)PPHの利益を主張する出願を受領できます。 

PPHプログラムでは、毎年100件の処理が予定されています。筆者自身の経験では、初年度(2019-20年)にIPOで審査するために日本の出願者から受け取った100件の申請書はスムーズかつ迅速に処理され、記録的な速さで交付に進みました。この記事を書いている時点で、IPO-JPO PPHの2年目の枠には既に72件の応募がありました。近いうちに、他の国や地域ともPPH協定を結ぶことが期待されています。

新型コロナウィルスと強制実施権

避けて通れない新型コロナウィルスの存在に再び目を向けると、インドが壊滅的な第二波に見舞われ、新型コロナウィルス対策用の一部の医薬品が不足していた時、インドの最高裁判所とデリー高等裁判所は、政府に強制ライセンス規定を導入するよう提案していました。状況が改善されたとはいえインドは人口の多い大国であるため、まだまだ不透明な状況です。新型コロナウィルスによってもたらされた公衆衛生上の緊急事態は強制実施権を発動するためのすべての要件を満たしており、このようなライセンスの実施についてはまだ議論の余地があると言えるでしょう。しかし、インド政府は最高裁への提出資料の中で強制実施権規定の発動は必要ないと指摘し、多くの人を驚かせました。新型コロナウィルスのワクチンの不足については原材料や必要な判断材料が入手できないことが主な制約として挙げられていて、政府では追加ライセンスを取得してもすぐには医薬品やワクチンの生産量の増加にはつながらないと考えています。また、革新的な企業による自主的な実施の役割も支持されました。現在、政府は幹部レベルの関与と外交を重視していて、強制実施にふさわしい状況が発生した場合にこの問題を検討すると述べた上で、「必須医薬品や特許問題を抱えるワクチンに関する法的権限の行使について議論したり言及したりすることは、外交その他のルートを通じてあらゆる資源、善意、善行を駆使して世界的なプラットフォームで行われている国の努力に、深刻で重大で望ましくない悪影響を及ぼすことになる」と訴えています。

特に、2020年10月に開催されたTRIPS理事会の前に、インドが南アフリカと共同で新型コロナウィルスに対処するための知的財産権の放棄を提案していたことを考えれば、国際的な特許関係者がこのような立場や方針に注目するのは当然のことです。

結論

特筆すべき点は、パンデミックによる制約にもかかわらず、裁判所がIP案件の効率的かつ迅速な審理を実現するための適切な手続き(遠隔地での審理を含む)を考案し、模範的に活動してきたことです。このような状況を踏まえると、米国商工会議所が発表した最新の国際知的財産(IP)指数2021で、知的財産のエコシステムが具体的に改善されていることでインドが40位にランクアップしたことは不思議ではありません。

最後に、2021年7月23日に発表されたインド議会委員会の報告書では、同国の知的財産制度における進歩を評価し、同国における知的財産の創出、保護、執行をさらに強化するために次にするべきことについて概説しています。IPABの廃止を撤回する可能性についての勧告(IP業界が興味を持って見守ることになるでしょう!)とは別に、委員会は特許の観点からインド特許法第3条に基づく主題適格性に関する様々な規定を見直しました。委員会は第3条(c)を背景に、自然界に存在する非生物に特許を付与する可能性を模索すること、第3条(d)が漸進的なイノベーションを保護するための障壁となる可能性の検討、第3条(j)の観点からのインド政府を参加者とすることを前提とした植物や種子の特許の承認についての徹底的な分析、AIイノベーションの増加に伴う第3条(k)の見直し、数学的手法やアルゴリズムを有形の技術装置に結びつける特許の付与の検討を提案しています。

上記の変更がすべて採用されれば、特許出願人が発明の異なる分野でより広い主題保護の範囲を確保するのに役立ちます。全体的に見て、インドの特許業界に漂うムードは間違いなくポジティブなものであり、海外の出願人は正しい方向に着実かつ漸進的に進んでいる法域に注目しています。

 Click here to read this chapter in English

Click here to read all the chapters from the Japanese Buyers' Guide 2021

 

remfry-khuraijam-shukadev.jpg

シュカデブ・クライジャム(Shukadev Khuraijam)氏は、15年以上の経験を持つ特許弁護士であり、クライアントのために物議を醸す問題を含めた様々な問題に関するアドバイスを行っています。シュカデブ氏は、デリー大学で科学と法律の学位を取得し、専門家として、複雑な特許案件における法律的および技術的な側面から戦略的なアドバイスを提供していますが、特に製薬、バイオテクノロジー、化学特許の分野を得意としています。様々な民事裁判所、インド特許庁、知的財産控訴委員会(IPAB)などの多くのフォーラムに出席し、さらにインドの特許法理を形成したいくつかのケースに関与したことで知られています。

著名な出版物に複数の記事を寄稿し、また国内外におけるIPフォーラムでも頻繁に講演活動を行っています。

また、以下にも関与しています。

- 国際知的財産保護協会(AIPPI) のインドグループの執行委員会メンバー

- AIPPI常任委員会の特許担当指名委員

more from across site and ros bottom lb

More from across our site

Sources say they have found the social media platform Bluesky to be a good place to post IP content, while others plan to watch the site closely
The USPTO’s internal ban on AI use, a major SEP ruling rejecting an interim licence request, and the EUIPO’s five-year plan were among the biggest talking points
Speaking to Managing IP, Kathi Vidal says she’s looking forward to helping clients shape policy when she returns to Winston & Strawn
AA Thornton and Venner Shipley’s combination creates a new kid on the block, but one which could rival the major UPC players
Amit Aswal explains why you should take on challenges early in your career and why the IP community is a strong, trustworthy network
Five members of Qantm’s leadership team, including its new managing director, discuss how the business is operating under private equity ownership and reveal expansion plans
In our latest UPC update, we examine an important decision concerning the withdrawal of opt-outs, a significant victory for Edwards, and the launch of a new Hamburg-based IP firm
The combined firm, which will operate under the Venner Shipley name and have 46 partners, will go live in December
Vidal, who recently announced her departure from the USPTO, said she decided to rejoin the firm because of its team and culture
Osborne Clarke said John Linneker’s experience, including acting for SkyKick in the seminal dispute with Sky, will be a huge asset to the firm
Gift this article