SEPライセンスを巡る争い

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SEPライセンスを巡る争い

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クアルコム:韓国公正取引委員会(KFTC)

近年、情報通信技術の融合・複合と相まって、様々な分野において標準化が加速している。標準必須特許(SEP)の確保が企業の競争力、ひいては国の競争力を左右するとの認識が広まっている中、SEPライセンスを巡る紛争には、関連企業のみならず国際的な関心が寄せられている。

SEPライセンス市場で、クアルコムは比類のない地位を占めている。クアルコムは、SEPライセンスにおいて独自のユニークなビジネスモデルを築き上げ、長期間にわたり移動通信分野で市場支配的影響力を行使してきた。ところが、クアルコムのライセンスモデルは、反競争的行為であるという反発を呼び、IP5のすべての競争当局との紛争が相次いでいる。とりわけ、韓国とアメリカでは、FRAND宣言といった同じイシューを巡って現在も紛争が続いており、サムスン、アップル、ファーウェイなど業界のキープレーヤーの殆どが関連裁判に参加しているのが実情である。本稿では、韓国における争いについて紹介する。

1. 事件の経過

かかる紛争は、表向きにはクアルコム対韓国公正取引委員会(KFTC)だが、実際にはクアルコム対他のメーカーとの争いであるとも言える。それはなぜか、事件の経過を見るとその理由が見えてくる。

KFTCは2015年、クアルコムに独占禁止法違反の疑いがあるとし、調査に着手した。クアルコムの競合他社及び顧客企業がこの調査に積極的に協力し、膨大な量の内部資料と主張・意見を提出した。これに基づき、KFTCは2017年1月にクアルコムに対してライセンスモデルを是正する旨の処分を下した(議決第2017-025号)。

クアルコムはKFTCの行政処分に不服の訴えを提起した。ソウル高等裁判所では、前述の企業らが訴訟手続きに直接参加しクアルコムを攻撃した。このうち、サムスン、アップルは途中でクアルコムと和解し参加を取りやめた。一方、LG、インテル、ファーウェイ、メディアテックは最後まで残り、2020年1月にKFTCに勝訴を導いた(ソウル高裁2017Nu48)。

これに対しクアルコムは上告し、前記4社は韓国の最高裁判所の訴訟にも参加している(最高裁2020Du31897)。

2. サプライチェーンにおける各企業の位置づけ

クアルコムは標準必須特許の保有者でありながら、これを具現するモデムチップを製造するチップセットメーカーである。

インテル、メディアテックもチップセットメーカーで、クアルコムの直接的なライバルである。LG、アップルは端末メーカーで、クアルコムからモデムチップを購入する顧客であると同時に、SEPのライセンシーでもある。サムスン、ファーウェイはモデムチップとスマートフォンの両方を製造し、ライセンスを必要としている。

3. クアルコムのライセンスモデル

クアルコムは独占事業者としてFRAND義務を破るなど独禁法に違反したと言われている。問題のクアルコムの行為は大きく3つに分けられる。

1つ目、クアルコムは、ライバルのチップセットメーカーに対して、SEPに関するライセンス契約を拒絶する。その代わり、不争契約を提案・締結する。このような「ライセンスの拒絶」施策を通じて、ライバルのモデムチップにおいて、ライセンスにより特許権が消尽することを防ぐのである。ライバルのモデムチップ自体に関しては争わないが、そのモデムチップが搭載されたスマートフォンに対しては特許権を主張できる状態にするものと言える。

2つ目、クアルコムは、端末メーカーに対して、モデムチップを供給するためには、SEPライセンス契約を締結することを求める。これはいわゆる「ノーライセンス・ノーチップ」と呼ばれている。このような施策でクアルコムは、ライセンスの履行という武器を持ち、端末メーカーに対するモデムチップの供給をいつでも拒絶したり中断したりできる立場となるのだ。

最後に、この2つの行為で築き上げた有利な地位をもとに、端末メーカーに対して有利な条件でライセンス契約を締結する。特に問題となるのは、全ての特許に対しロイヤルティーの算定基準をモデムチップの価格ではなく、「端末のレベル」にすることだ。さらに、無償のクロスライセンスを契約の条件にし、自分を中心とした「特許の傘」を作ることである。

4. 韓国公取委の処分

要するに、クアルコムの戦略は次の通りである。ライセンスの拒絶を通じてライバルのチップセットメーカーを市場から排除すると同時に、端末メーカーに対しノーライセンス・ノーチップを強制する。よって、ロイヤルティーの算定基準を端末のレベルに上げて高い利益を得るとともに、クアルコム中心の特許の傘を作ってライバルを排除する。その結果、SEPとモデムチップの両市場において自分の独占力をさらに強める。その独占力をもとに、ライセンスの拒絶そしてノーライセンス・ノーチップ戦略を維持するのだ。

KFTCは前述の行為が反競争的行為に該当すると判断した。そして、違法行為の是正を命じるとともに、約1兆ウォン(約1千億円)の課徴金の支払いを命じた。この課徴金はKFTCの発足以来最高額である。クアルコムは不服を申し立てた。

5. ソウル高等裁判所の判決

ソウル高裁は次のように判示した。ライセンスの拒絶、及びノーライセンス・ノーチップに関してはKFTCの是正命令は妥当、つまり、クアルコムの2つの行為は違法である。その一方、ライセンスの条件に対するKFTCの是正命令は不当、つまり、クアルコムの行為は違法ではない。ただし、2つの行為が違法である以上、これに基づいて算定された課徴金は全額適法である。

チップセットメーカーに対するライセンスの拒絶が違法だとされたのは、SEPに関するFRAND義務に完全に反するというのが最も大きな理由だった。クアルコムは実施を希望する者に対して、ライセンス交渉に誠実に臨み、また公正かつ合理的な条件で契約を締結すべきとのことだ。

端末メーカーに対するノーライセンス・ノーチップの違法性でも、FRAND宣言が問題となった。とりわけ、SEPの保有者が一方的な判断でモデムチップの供給の中断を決めることは、裁判所が差し止めを命じることよりも強力なため許されないとした。

その一方、有利なライセンスの条件は、前述の2つの行為による結果であり、端末レベルのロイヤルティーの算定や無償のクロスライセンス自体は違法ではないと判断された。

6. 結び

ソウル高裁はクアルコムのライセンス戦略を否定し、さらに課徴金の支払い額をそのまま維持した。KFTCの勝訴となったソウル高裁の判決は、事実上、ライバルのチップセットメーカーと端末メーカーの勝利とも言うべきであろう。かかる判決に対してクアルコムは上告し、本事件は現在最高裁に係属中である。


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崔 世煥(チェ セファン)

弁理士 工学博士

学 歴:ソウル大学 機械航空工学部(B.S)、ソウル大学大学院 機械工学部(Ph.D.)、早稲田大学大学院 法学研究科(LL.M.)

経 歴:ソウル大学 共同研究所、韓国の特許事務所、日本の特許事務所(東京)

崔世煥氏は、情報通信、電気、機械、材料など幅広い分野において、特許出願、審判・訴訟、鑑定など様々な業務にあたり大きな成果を収めてきた。また、技術、IP、法律にわたる専門性をもとに、韓国のみならず日本でも多くの講義を行ってきた。崔氏ならびに第一特許法人は、日本の知財システムに関する多様な経験と理解をもとに、日本クライアントに最適なIPサービスを提供している。

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